高張力鋼とは?

高張力鋼の加工風景(アイトレーサによる切断)
高張力鋼の加工風景(アイトレーサによる切断)

当社が主に使用している鉄鋼材料である「高張力鋼」とは正式には 「溶接構造用高張力鋼材」 と呼び、通称ハイテン鋼とも呼ばれているものです。この「高張力鋼」とは一体どのような物なのでしょうか?

建物など重量をそれほど気にしない一般的な構造物には(もちろん例外はありますが)SS400 などの軟鋼で、強度がおよそ、引張強さ 400MPa、 降伏点 235MPa 位の物が多く用いられています。

しかし、建設機械や作業車など、道路などを利用して移動する必要のある構造物は、重すぎるとトラックでは運べなくなってしまいますし、作業車などの場合、車検が取れなくなってしまいます。

このため、もっと高強度の鋼材を使用し、材料の板圧を薄くしても元の強度を確保するなどの対策をして装置の軽量化をする必要があります。

刀などは鉄の炭素含有量を多くして、焼き入れを行う事により強度を上げます。
作業機械もこれと同じ事をやれば強度は上がるはずですが、しかし作業機械は鋼板をガス切断したり溶接で繋ぎ合わせたりして作るので、この溶接時の熱で鋼板の組織が変化したり、炭素の影響で溶接そのものが困難です。
また仮に出来たとしても、何tonもあるような機械にどうやって焼き入れを行うのでしょうか?さらに焼き入れが出来たとしても、焼き入れ時の熱の影響で全体の寸法が狂ってしまい、使い物にならなくなってしまいます。

そこで登場するのが「溶接構造用高張力鋼材」で、一言で言ってしまえば、溶接しても大丈夫な高強度の鋼材です。
当社では WEL-TEN590(引張強さ 590MPa、降伏点 450MPa 位)と WEL-TEN780 (引張強さ780MPa、降伏点 685MPa 位)を主に使用しています。

溶接構造用高張力鋼材は溶接性の向上のため、炭素 を 0.2%以下に押さえマンガンおよびシリコンの含有量を高めて強度を増したものです。さらに降伏点やじん性を高めるためにニッケル、クロム、モリブデン、 バナジウムなども添加されています。

銅やリン、クロムなどをやや多く添加させ耐候性を向上させた高耐候性高張力鋼もありますが、作業機械では「さび止め」、「上塗り」といった塗装による表面処理を行って錆び対策を行うので、当社では特に使用していません。

当社で主に使用している高張力鋼の規格

化学成分(%) WEL-TEN590 WEL-TEN780
C 0.16以下 0.16以下
Si 0.15-0.55 0.15-0.35
Mn 0.9-1.5 0.6-1.2
P 0.03以下 0.03以下
S 0.03以下 0.03以下
Cu 0.15-0.50
Cr 0.3以下 0.4-0.8
Ni 0.6以下 0.4-1.5
Mo 0.3-0.6 0.3-0.6
V 0.1以下 0.1以下

新日本製鐵「特殊鋼の規格及び呼称の比較表」より抜粋